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商用EVの未来:補助金、バッテリー、充電ステーションの重要性

商用EVとは

EV関連のニュースが連日新聞紙上を賑わしているが、話題になっているEVの対象は主に個人向けの乗用車系の車種のことである。今後この顧客層にEVが浸透するかどうかは最終的には顧客である個人が商品力、経済性、利便性等を判断して決めることになる。

一方で、地味ながらも着実にEV化が進んでいるのが商用EVの領域で、今回はこれについてご紹介したい。

EVを商用用途で使用する企業は輸送業に携わる物流・配送会社や電鉄、旅行会社、タクシー・レンタカー会社等で、車種としてはトラックやバス、軽商用バンが対象となる。

乗用車の領域に比べて日本での商用EVに参入しているメーカーは現時点では限定的で、トラックでは日野、いすず、三菱ふそうの日系3社、バスは日野、いすゞの日系大手に新興のEVモーターズ・ジャパンや中国EV最大手BYD、軽商用バンはホンダ・日産・三菱の大手日系3社に新興メーカーが複数社参入中という状況。

大型のトラックやバスになるとバッテリーも大型化し車体重量自体が重くなったり、また貨物や乗客のスペースをとってしまうことから、水素トラックやバスの開発も進んでいるが、EVとの比較に於いてのメリット(充填時間、走行距離)やデメリット(水素コスト、水素ステーション拠点不足)から現時点では大型車両は水素、中小型車両はEVとの住み分けが進んでいる。

商用EVの歩み

運輸部門が排出するCO2は全産業の約20%弱にも及び、更にその内40%弱が貨物輸送が占めることから、物流業界の脱炭素化は待ったなしと言える。日本政府は2030年度において二酸化炭素排出量を2013年度比46%削減、2050年度においてカーボンニュートラルを達成することを目標として打ち出している。

前述の通り商用EVの主体者は物流・配送事業者やバス運行会社が中心で、これら事業者はEV導入以外にも再生可能エネルギーの活用や太陽光パネルの設置、省エネの推進、鉄道・船への輸送切り替え(モーダルシフト)、貨物と人を同時に運ぶ貨客混載への取組み等を通しCO2削減努力を行っている。

物流業界やバス業界では足元は2024年問題と言われる残業規制やドライバー不足問題でEV化への対応が後手に回っているものの、企業として既に脱炭素化に向けた数値目標を正式発表していることやESG対応が企業の社会的責任において不可欠な点、更にEV化によるコスト低減の観点からEV化推進は各企業の最重要課題となっている。

新しいビジネスモデル(商用EV導入・運用サービス)の勃興

ではどの様に保有車両のEV化を進めていくのか、ここではトラックを使用する物流・運輸会社を想定し見ていきたい。大手の物流会社では保有台数は数千台から数万台にのぼり、一般的にはフリートマネジメントと呼ばれる手法で保有車両とその運行管理を行っている。

フリートマネジメントは車両自体の動産管理と運用面の動態管理から構成されており、その効率性を高めることが企業のコスト競争力の源泉となっている。動産管理は車両の保険や車検が正しく手続きされ、また保守点検の整備が確りなされ、車両がいつでも走行できる状態にしておくことが目的。

動態管理は、最新のテレマティクス技術を使い、車両がいつどこで誰にどの様に運転されているかの稼働状況と走行状態を常時モニタリングするもので、適切な運行ルートを交通法規を守り安全に運転されているかどうか、効率と安全の両立性を管理するもの。

そもそもEVは従来のエンジン車とは異なり、充放電を通して劣化するバッテリーを駆動源とする繊細な車。バッテリーの寿命が車両の耐用年数や中古車価格に直結することから長期間にわたり性能を維持するためには従来以上に入念な保守整備が必要となる。

現場の社員にとっても給油という従来の概念から充電に、車両の効率性測定も燃費(km/L)から電費(km/kWh)という考え方に切り替えなければならない。よってEVを導入し円滑に稼働させるためにはバッテリー関連のノウハウが必要となり、ここに新たなビジネスチャンスが生まれることになる。

EV導入の具体的ステップ

導入にあたりまずはEV車種の選定。いまだ市場で販売されるEVは少なく、企業は自社の輸送体制に合わせた適切な車種の選定が必要となる。次に運行ルートや荷量を参考に導入台数を設定する。

車種や台数に応じて充電器の設置も必要になる。充電器も高価な設備機械であり、用途に応じて最適な機器の選定、台数、レイアウト、更に充電器自体の適切な保守点検が必要となる。太陽光パネルを設置して発電したり、作った電気を貯めておく蓄電池を設置することで、敷地内で発電・蓄電・充電の脱炭素プロセスを完結させることも中長期的なコスト低減につながる取組みとなる。

走行中の車両のバッテリー残量や劣化度合いを前述のテレマティクス技術で常時監視し、最適なタイミングで充電や整備を行うこともバッテリーの長寿化には有益な手段となる。

EV導入のメリットと課題

この様にEV車両を導入しCO2削減と車両の保有・運行コスト削減につなげるためには、車両・バッテリー自体の管理とフリートマネジメントに加えて充電インフラとエネルギーマネジメントを掛け合わせる様々な専門的ノウハウが必要となることから、導入・運用支援のサービスを提供するビジネスが誕生してきたことは興味深い。

業界自体は未だ勃興期であり、現在は各企業が本格導入に向けて実証実験の段階にある。私見としてはEコマース需要で市場が拡大し、比較的安価な車種が揃う軽商用EVの分野が商用EV全体の拡大を牽引していくのではないかと推測しているが、今後の動向を引き続き注視していきたい。