イントレプレナー塾
ロッテの市場革新:出島組織の設立とチルドデザート市場への挑戦
イントレプレナー塾卒業生をご招待したイントレプレナー会にて、実際に新規事業を立ち上げた
株式会社ロッテ 新領域開発部 山下 幸治様のスピーチをご紹介します。
自社が展開する市場領域を拡大する役割を果たす、新領域開発部に任命された山下氏の経験と、
新商品開発成功の鍵についてお話して頂きました。
山下 幸治 様
1994年早稲田大学卒業、同年株式会社ロッテ入社。営業からプロモーション・商品開発・戦略と商品畑を渡り歩き、2020年より新領域開発部 部長として現職。
株式会社ロッテ
1948年創業。チューイングガム・チョコレート・キャンディ・ビスケットを中心とした菓子、アイスクリームの製造及び販売が主な事業であり、千葉ロッテマリーンズなどがグループ企業。2024年には、主力カテゴリーであるチョコレートが60周年を迎えた。
出島組織の設立
新領域に取り組むきっかけとなったのは、事業環境の変化による事業領域拡大の必要性です。
現状を打開し企業として成長するために求められたのは、「両利きの経営」への移行でした。
「両利きの経営」とは、既存事業の「深化」と、企業資源を活用した新規事業への「探索」を同時に実行する経営方針です。
出島組織とは、本部に属さない単独組織です。
新規事業開発部は出島組織として、「1つの市場に注目し本格導入まで進め、区切りががついたら新たな市場へ挑戦する。」というビジョンの基に結成されました。
山下氏は実働した体感を以下のように語ってくださっています。
少数で探索をする独立事業であるが故に、孤立感を多々感じました。
また、本体とは別会社でないため、既存事業の資源や能力にアプローチする必要がありました。
特に現場の方に必要性を説明していくために、大変な苦労をしましたが、逆風を受けながらも、会社から特名を受けた覚悟を胸に突き進んでいきました。
山下氏は「出島組織は、独立性の確保と資産能力の活用がポイントとなる」とおっしゃいます。
独立性を維持することは、出島組織が本部の既存プロセスや方針に縛られることなく、迅速に意思決定を行い、革新的なアプローチを採用できるようにするために、不可欠な要素です。
これにより、新しい市場の機会を捉えたり、技術の進歩を取り入れたりする柔軟性が高まります。
また資産能力の活用とは、出島組織がその目的を達成するための必要なリソースを、最大限に引き出し、活用することを意味します。
そのためには、出島組織が帰属する企業の経営資源(財務資源、人的資源、および知的資産)が含まれ、これらを効果的に管理し、目標達成に向けて動員することが求められます。
出島組織の成功は、「独立性の維持」と「資産能力の活用」という二つの要素がどのように統合され、実行されるかにかかっています。
独立性を確保しつつも、企業全体の戦略に沿った方向性を維持すること、
そして利用可能な資産を最適に活用して、実行可能なイノベーションを生み出す能力が、
その成否の鍵を握ります。
これらのバランスを取ることは簡単ではありませんが、組織が外部環境の変化に迅速に対応し、
持続的な成長を遂げるためには不可欠です。
探索に次ぐ探索と新市場への挑戦
出島組織では新市場参入に即して『菓子アイス以外のロッテが参入すべき新市場を探索、新商品開発による新市場参入、シェアを獲得・拡大する』と目標を立てました。
そして、新商品を開発しテストマーケティングを実施、上手くいった事実を社内に明示し、
その後本格参入するという一連の流れを決定しました。
まず着手したのは「チルドデザート市場」。
チルドデザートとは、コンビニでもよく見かけるシュークリームやゼリーにプリンといった冷蔵保存が必要なスイーツのことを指します。
山下氏ら新領域開発部の面々は、この市場動向に目を付けたのです。
市場分析を重ねた結果エクレアなどチョコレート系チルドデザートの人気は高く、毎度チルドデザートランキングの上位にランクインしています。
チョコレートカテゴリーは、ロッテの強みを存分に活かせる分野。
山下氏曰くチョコレートは、「菓子の重工業」と言われるほど設備も技術もノウハウも求められる、新規参入の難しい領域とのこと。
チョコレートへのニーズが高い上に、ノウハウも持っている状況で勝機を見出すには十分でした。
新商品「生チョコパイ」の開発
お待たせしました。生になりました!あのチョコパイがチルドデザートで新登場!ロッテ初のチルドデザート『生 チョコパイ』を発売いたします。
ロッテにはチョコレート以外にも看板商品がたくさんあります。各種商品で培われた技術の蓄積という経営資源は至宝と言えるでしょう。
その集大成を余すことなく提供できるチルドデザートとして選ばれたのは、2023年に発売40周年を迎えるロングセラーの「チョコパイ」でした。
温度帯の壁を突破
製品開発において課題となったのは「冷蔵保存」でした。
菓子・アイス業界の大手であるロッテが、チルドデザート業界に進出するには、温度帯の壁を越えることが不可欠でした。
既存事業は常温の菓子と冷凍のアイスであり、「冷蔵」であるチルドデザートは温度帯が全く異なります。温度帯が違うことにより必要となるインフラも異なり、整備に莫大な費用がかかってしまいます。
課題解決のため、新たなパートナーを模索し、協業を行うこととしました。
温度帯の壁を打破するべく、「冷蔵」に対応できる品質を研究所が何度も検討し、出来上がった製品にてテストマーケティングを行いました。
そのテストマーケティングは見事成功し、その後の全国発売(CVSチャネル除く)への足がかりとなったのです。
消費期限の長い製品を多く販売しているロッテにとって、チルド製品製造の大きなネックを解消したことは、新規市場参入の鍵となりました。
市場での成功
こうしてチルドデザート市場への足がかりとして『生チョコパイ』の開発に成功したロッテ。
従来のチョコパイよりも大きく、しっとりした食感と豊富なクリームが特徴です。
テスト販売では、発売後1週間でチルドデザートカテゴリーでNO.1を獲得する大成功を収めました。
SNSでも大盛況。この事例は、市場のニーズを正確に捉える重要性と、既存の経営資源を最大限生かしつつ新領域へ事業展開していくコラボレーションの必要性を示しています。
2024年2月には、チルドスイーツ2作目となる『生雪見だいふく』が全国に発売開始。
新商品も販売され、チルドデザート市場への参入は無事に果たされたと言えるでしょう。
初めまして!“生”になりました。あの「雪見だいふく」がチルドデザートになって新登場!『生雪見だいふく』 2024年2月15日(木)より全国のスーパー・ドラッグストアにて発売
おわりに
株式会社ロッテの出島組織「新領域開発部」は、新市場への進出にて成功を収めました。
本組織による新市場への進出と成功は、変化する市場環境における、企業の変化様式の良例と言えるではずです。
今後も新領域開発部が、新たな市場へ挑戦を続け、画期的な新商品を展開し続けることを期待してます!
この記事が、新規事業担当者の皆さまの新しい可能性を探求し、革新的な取り組みへと昇華するための、インスピレーションとなることを願っています。
(本記事は2023年5月に行ったイベントの内容を元に作成しています)