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コラム

第28回

「企業内起業といっても」

企業の中での起業は、自分の思いを形にするために、会社の制度を利用できるという恵まれたところもありますが、人によっては、突然振って沸いたように辞令がでて、どこそこの「弊社子会社○○社長を命ずる」ということもあります。

サラリーマンの世界では、「ちょっとまってよ、嫌です」なんて事は言えません。「ちなみに場所は?」程度しか聞けない。ということもあるのではないでしょうか。

逆に、なにがなんでも、これをやりたい!という「アイディア」を持っている人は企業人には案外少なく、私たちも新規事業創出というミッションを担うたびに、「さー、どこから、テーマを探るか」といった事も多いのです。

元来、組織人は目の前の仕事に追われ、こんな事をやりたいなぁと、現実的でない、夢みたいな事を考えている時間は、優秀な人程少ないものかもしれません。

ところが、組織人としても有能な人は、いきなりでも「あなたは、これをやってください」と言われると、なんでもできてしまう、それが社長という大役であっても、社長という役割をしっかりイメージできるのですから、それはとても、凄いことだと思います。(もっとも、辞令を出すほうも、そういう人材でないと、任せるはずはないのですが。)

さて、今回は、株式会社チヨダの舟橋社長が、一つの事業を任されたマックハウスの栗原社長をご紹介させていただきます。

栗原社長の社会人デビューは、銀座の一流店でしたが、あまりにも楽な仕事に不安を感じていたころに、たまたま入った靴屋さんの社長と意気投合し、そのまま、その靴屋さんが数店舗からいっきに一部上場の日本一の靴屋になるまで、苦労も喜びも、分かち合って歩まれてきました。

(株)チヨダで、常務としてご活躍されながらも、店舗開発の中心を担っていたある日の事。出張帰りに社長に呼び出され、鍵と謄本を渡されます。

「今日から、ここの仕事、やってね。近所に事務所も借りておいたから」と社長の一言。驚くまもなく、ともかくも、その場所へ行き部屋を空けると、ガランとした空間が。

「え?机とか、電話とか、人とか、え?どうすんの?」と一瞬呆然とされたのですが、そこは抜擢された方、腹をくくって、まずは事務所作り、人材募集に始まり、営業構築、店舗開発、仕入れ先開拓、システム構築、上場計画と着実に進め、8年後に見事、ジャスダックに上場。今や、500店舗の、時価総額298億円の企業となりました。

カジュアルウェアという競合の多い世界に後発で参入しながら、いつのまにか確固たるポジションを築いた素晴しい戦略と戦術を持った会社です。

栗原社長は、人を大切にされます。どんな小さな約束も守られます。社内の人も、社外の人も、地方で知り合っただけの方にも、だから、おつきあいの範囲がひろく、親睦のあつい方々がお祝いする誕生会は、毎年大盛況です。

私が、この方の本当の優しさを知ったのは、ある時期一世を風靡したショッピングセンターの社長が、退任後に寂しく亡くなられた時の事でした。お世話になったはずの方々の参列が少ない中、当時、最も忙しいはずの栗原社長の姿に驚きました。

「ハレの日は、何回もあるかもしれないし、また会えるけど、葬式は一度しかないからね。世話になった方にご挨拶するのは当たり前だよ」と私に教えてくださいました。

こういう人格の方が、与えられたミッションをそれ以上にこなし、前へ、前へと辛くても弱音をはかずに、いつも、楽しそうにお仕事をされているのですから、トップになられた事は自然の流れなのかもしれません。世界の店舗を視察し、勉強しながらも、日本の地方の特性を、地理も風土も知り尽くしている、なによりも、実践の経営者です。

過日、栗原社長が、「僕は睡眠時間が少ないから、同じ年齢の人に比べると10年くらい余分に生きているんだよ」とおっしゃった言葉が印象に残っています。これからも、まだまだ、いろいろな戦略を練られ、業界を引っ張っていかれることと思います。今年もマックハウスから目が離せません。

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