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コラム

第59回

「軒先借りて」

つい最近、自然体の女性経営者の講演を聞いた。
有名大学卒業後、大手メーカーに就職、海外赴任をリーダーとして経験したという華麗な経歴を持つキャリアウーマンが、仕事の価値に疑問を感じた事から退職し、価値観を共有している旦那様と二人で創業されたという起業に至るまでのお話しだった。

なによりも頼もしく思ったのは、妊娠中にビジネスモデルを検証して出産後に起業されたという『実行』する胆力である。そもそも、妊娠をしている最中にビジネスモデルを考えるということが凄い。通常なら、体の調子を慮って慎重な生活をするものである。

にもかかわらず、大きなお腹を抱えて取引会社の方々と商談していたというのだから、実に逞しい。女性は強いのだ。もちろん、それはよく、とてもよく、誰よりもよく、わかっているのだけど、苦労や努力の疲れを感じさせず、気負いも驕りもなく、自然体で事業を語る奥様経営者には、初めて出会った。

事業内容は、軒先を貸す人借りる人をマッチングするサイトの運営である。あまりにも大胆な発想に基づいたビジネスであるので、経験者が乏しく、始めて出てくる課題も多いと思う。派手さはない上に、力のいる事業だ。発想の原点は、自分のお店探し。

海外在住の経験から、海外製品の販売店を起案。経験もないので、とりあえず試験販売を企画した。実験店舗を物色中、日貸し店舗の根拠の無い高額さに驚き、それなら自分で探そうと思い立ったそうだ。

高いと思ったから安いところを自分で探す。実に解りやすい。しかし、その当たり前の発想が、これまでの不動産賃貸の社会では、見過ごされていたようだ。もしくは、業界の人に言わせれば業種そのものが違うのかも知れないが、いずれにしろその発想と実行力に脱帽した。

思えば個人住宅の前とか、マンションのエントランスとか、空き店舗の前とか、駐車場の一角とか、お金が取れるはずの価値ある場所が沢山空いている。

そうはいっても、誰に貸したらいいのかわからないという家主。逆に人通りのあるところであれば短期で物を売りたい宣伝したい、あるいは、古い家の玄関をロケに使いたいだの様々な用途で「ちょっとだけ貸して!」という程度の短期使用ニーズも沢山ある。

サイトを使えば、距離も時間も越えて全ての対応ができる。なので、webで紹介業を構築。そして、ちょっとだけ借りるという意味なのだろう、このサイト名は「軒先.com」である。

これからの時代、誰かに何かを言われるのが怖いから、規制が面倒だからとか考えていたら、何も新しい事業は生まれない。誰かに文句を言われるから新しいのだ。

そもそも、誰でも出来る参入障壁の低い事業は、いわゆるレッドオーシャンビジネス。市場を取るしかない型である。資本が力を発揮する。

それに引き換えこのモデルは、まさにブルーオーシャン。未開の市場であり、かつ無限大の可能性がある。もちろん、モデルを構築するにあたり、リーガル面は考慮されているようだが、お化けは出てから驚くしかない。それに、出る杭は打たれるのが社会の法則なので仕方がない。

それにしても、結婚と起業を一緒にする方は、ままある事だが、出産。しかも、そう若くは無い年齢で、子育てと事業が一緒になるというのは、実に冒険だ。ベンチャーではなくアドベンチャーだ。

ただ、自営なので、子供を育てながらも、自由に仕事調整が出来るというのは、私も同じ経験を持っているのでよくわかる。勤めていれば、一定時間を拘束されるのだが、自営は自分でルールがつくれる。(それが、企業としての体をなすかどうかは別にして)育児と仕事を時間配分もしくは同時にでもできるので、気持ち的には楽なはずだ。もちろん体力は使うが、この方なら、やりきるし、数年後には、事業もお子様も順調に育っていると思う。

これからも、あらゆる困難を、お二人でさらりと乗り切って素敵な人生を送っていかれると思いながら、講演終了時には、手が痛くなるくらい精一杯の拍手をしていた。

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