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コラム

第60回

「それ、恕(じょ)か」 

人を包むとはこういう事なのだと改めて教えて頂いた方がいる。「堀場製作所 最高顧問 堀場雅夫氏」である。

過日、吉井が京都の堀場氏のところに伺うという話を聞きつけ、ありったけの理由をつけまくり、なんとかお供をさせて頂いた。大変興味のある方だったので、この機を逃したくなかったからだ。

多くのテレビ番組で紹介されていらしたし、ユニークな題名の著書を拝見させていただいて、なんて、大らかな方だろう、なんて、素直に表現される方なのだ、こんな方とお話しをすると自分も豊かな気持ちになって幸せな気分になるだろうと勝手な想像をしていた。

現実は、想像を超えていた。

京都駅から一目散で堀場製作所につき、丁寧なご案内でエレベーターに向かうと、正面のドア一杯に書かれた社是「おもしろおかしく」(自筆)に遭遇。感動しながら応接室へ、弊社の応接室とコンセプトが似ている事に驚き、喜んでいるとついに、堀場さま登場。

ともかく大きい。大きく感じるといったほうが正解かもしれないが、実に逞しい。声も、会話も若々しい。握手して頂いた大きな手もほっくりとして暖かい。

「やはりなぁ」と浸っていると冷えたシャンパンが出てきた。「嘘!」と心の声がした。堀場さま「飲める?」私「もちろんです!もちろんですともぉ!!」

なんだかわからないけど、得した気分で飲んでいると、とても自然な流れでお料理が運ばれてきた。日本酒も頂きながらの会話は、初めての人間を打ち解けさせる絶妙な話術で、かつ話の種が豊富でつきることがない。本音もさらりと出されるし、年下を上から見下ろす感など微塵もなく、にこやかに真剣に話を聞いてくださる。

吉井が、堀場さんのお話しを皆に聞かせたいので、東京で講演をして欲しいと御願いすると快く引き受けてくださった。

堀場氏といえば、学生起業家の草分けでもあり、企業内起業の推奨者でもある。 これからも、起業家や、企業内起業家を育成する事を使命としているインターウォーズに取って心強い味方だ。

帰りに記念写真を撮ろうとカメラを構えていたら、「お嬢さんも」とおっしゃるので、秘書のお嬢さんを探していたら、「お嬢さん」とは私の事だった。酔いが回っている上に、天まで舞い上がってしまい、実に危なげな顔で写真に映ってしまったのが唯一の無念である。

突然の御連絡でお邪魔した私達に、心のこもったおもてなしを頂き、お腹も気持ちもたっぷり満足させて頂いて帰路についた。

孔子の教えで「それ、恕(じょ)か」という有名な節がある。子貢問いて曰わく、「一言にして以って身を終うるまでこれを行うべき者ありや」。子曰わく、「それ恕か」。

人が生涯通じてなすべき事を一言で言って欲しいと要望した無邪気な弟子に対して、心の広い孔子が『それは、思いやりだよ』と教えてくださったというお話しだ。

思いやりというのは、実際のところ、とても深い。思いやる為には、自らの心を律し、高潔でなければできない。思いやりを表現することも難しい。ましてや、必ずや相手に通じるものではない。

つまり、見返りを求めての思いやりはありえないのである。我欲の中に思いやりなど存在しない。一言で言って欲しいという弟子の気持ちもよくわかるし、そのおかげで私も孔子の教えを少しばかり理解できたつもりになるので有りがたいのだが、人の生涯でなすべき事は細かくいえばきりがないのである。

出来れば思いやりを分解して、それを実行して、将来、堀場氏のように心おおらかに人生を謳歌し、多くの方に慕われる人物になって頂きたい。

私も、自身の幸せの為にも「日々、恕」で毎日を過ごしていくつもりだ。つい「恕」が「怒」となって落胆される可能性も大ではあるけど。

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