第30回
「プロ仕事人の報酬」
過日、アメリカの話題ベンチャー企業のトップと経営戦略について話す機会があった。
米国ベンチャーの競争優位は、技術、特許、独自のビジネスモデル、そして何にも増して、メンバーのやる気・・日本のベンチャーとほとんど変わらなかった。しかし、大きく異なっていたのはトップの年収とメンバーの報酬体系。
営業職は、グッドワーク・グーペイ成果報酬、技術職は固定報酬(営業の半分に満たない)とストックオプション(極めて大きい)。考え方は、技術メンバーは辞められと困る。ゴールまで共に歩んで欲しいので、目標達成したら大きなインセンティブとしてストックオプションを与える。
営業は、仕事の結果に対しジャストインタイムの報酬。そして、経営ボードメンバーは、利益に対してシェア。株主は、配当とキァピタルゲイン。日本のそれぞれの役回りに対する報酬の実態とは、考え方も額も全くかけ離れたものであった。
これまでの日本企業は、昇進昇格を基軸に縦ライン給与システムを組み立ててきたが、スリム化、フラット化、管理者の増加などで成り立たなくなった。
今後企業社会において、ますます管理者ポストは少数に集約され、一部の人がマネジメントのプロの道を歩むことになる。このマネジャーが存在する意味は、自らのビジョンを持ち経営の意志を受け、組織の創造性を生み出し、競争力を高めるリーダーシップにある。
これからは、知識仕事人としてある分野における専門性の高いプロとして、会社内ではその分野で3本の指に入り、その人がいなくては仕事が成り立たないという存在が求められる。
仕事人が1つのことを6年、深く追い求めれば間違いなく専門家になり得る。調整マネジメントを学ぶのではなく、自己エネルギーを一つの分野に集中して投入する「選択と集中」が個人にも通じる。
そして経営サイドとしては、そういった知識仕事人のプロを処遇するには、完全年俸制と価値に見合った待遇職が必要である。管理ポストに就いて雑事が増え、専門性や充実感が失われるのを避け、個人としての能力と業績に応じて資格や給料が上がれば必然的に会社の業績も上がる。
こういった人は、ラインの者よりも成果価値によっては年俸が上がり、完全年棒制の人は、報酬にプロ野球選手の様に上限を設けないのも大切だ。
これまで専門職制度といった職をよく耳にしたが、多くの企業で機能しなかったのは、昇進してもせいぜい専門部長止まり。ラインにいる部長の下といったポスト。どうも日の当たらないイメージで年功対応職といったケースが多い。年収もライン部長より低く、頭打ちとなっていた。
これでは、専門職を目指すメンバー達が育つはずもない。 思い切った人事処遇として、最近話題のミスミの年棒6,300万部長や、リクルートのフェロー制度、ソニーフェローといった価値を生む人は、これまでの人事制度の延長でない上限のない年俸制度、副社長待遇までのポストを創れば人も会社も生きてくる。
こういった知識仕事人のプロは個人の働きだけで収支的にペイし、組織ポストに就ける必要がなく、その人のもたらす利益価値の範囲で報酬を決めれば、何人いてもよく、多いほど会社は儲かる。
リストラとして、ライン管理職の対象者を何とかしたいといった声が後を立たないが、こういったプロを確保することが、これから益々企業が生き残りを賭けるには必不可欠となってくる。
最近、経済界に様々な異変が起こっている。その一つに、ドコモをはじめ子会社が親会社より短期間で時価総額が大きくなってきている新規事業会社が増えていることだ。
意志決定の早さをもった小さな本社が、戦略を推進するプロの仕事人を抱え、マーケットに向きあった付加価値報酬が一人ひとりのモチベーションを高め大きな競争優位を築いていることが、共通の要素として見えてくる。