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コラム

第89回

「志」

ゴールデンウィークに、明治維新の立て役者となった坂本龍馬の像と精神に触れてきた。
太平洋の荒波が寄せ、大きく弓なりに白線を描く高知の桂浜に、悠然と立つ龍馬は、はるか遠くを見つめていた。

幕末の時代、黒船来航により、時の政権は国の体をなさないほどに混乱し、様々な思想をもった派が生まれた。そして、倒幕に向かい始めた頃、中でも島津斉彬のもと、薩摩藩を率いる西郷隆盛や大久保利通、そして、長州藩の高杉晋作や桂小五郎といった身分を越えた同志による活動が激しかったと聞く。

当時、薩摩藩と長州藩は、互いに敵対関係にあったにも関わらず、坂本龍馬の仲介により薩長同盟が結ばれた。その背景に興味を持ち、龍馬が様々な人に送った手紙の文面から感じとれる精神の肉声や、住人から伝えられている「現地の龍馬像」を聞いてみた。

子供の頃の龍馬は、よく高い山や海に行き、常に遠くを見つめている子であり、武市半平太を兄貴分として慕っていたという。そして、遠くを見据え、本質を見抜き、固定概念なく人の意見を受け入れ、利害なく即に行動する、自由闊達な開放的な人間「坂本龍馬」を感じた。

当時の常識に囚われることなく、恋愛も仕事も自分の意思で決定し行動していた龍馬は、黒船を率いる外国に、日本が一体となって対応してゆくべきであるにも関わらず、内輪もめしている現況に強い憤りを感じていた。

国のあるべき姿を見据え、薩摩藩や長州藩のキーパーソンである西郷隆盛と桂小五郎に対し、これまでの信頼をベースに、それぞれがおかれている立場においての苦悩をしっかり受け止め、「新型兵器の鉄砲の入手困難な長州には、薩摩から最新ライフル銃を・・米に苦しんでいた薩摩へは、長州の米を・・」といった互いの利害を調整し、同盟に至らせた。

そして、この同盟によって互いの藩のエネルギーが重ね合わさり、時の政権を奪い、新たな立憲国家が誕生し、明治という近代国家時代が幕を開けた。坂本龍馬という人物の明治維新への貢献度は、あまりにも大きい。

昨年、企業間のM&Aが、2,200件を超え、短期で多くの企業連合による強力な企業が生まれた。そして、1,000億円以上の案件も14件と、薩長連合を思わせるような大型合併が進み、これまでの各業界のガリバー企業に挑み、新たな変革を起こす動きが盛んになってきている。

また、来年、商法改正により、ますます外国企業の日本企業買収に拍車がかかりそうになってきている。(まるで、黒船来航を思わせる。)これまで考えられなかったことだが、大企業さえも生き残りを賭け、奔走している今こそ、誰よりも真剣に、互いの真の利益を考え調整役に徹するプロデューサー龍馬のような人材が求められている。

桂浜に立ちつづけ、「遠くを見つめる」坂本龍馬の姿は、「志を持つ」ことが、変革の時代の今、いかに大切で素晴らしいことかを、130年の時が流れた今も無言で諭し続けているように思えた。

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