第152回
「子供の未来」
子供食堂のネットワークが進んでいるらしい。様々な事情で困窮している親子の為にボランティアで運営されている、時には相談相手にもなる心温まる食堂だそうだ。
誰もがおしなべて貧しかった頃は、近所で互いに協力し合ったり、分け合ったりして、貧富の差に嘆くことは少なかったように思うが、今では、有志によるボランティア施設を必要とする「超」格差社会なのだ。
そういう時代背景もあるのか、最近の若者の希望職は公務員だそうだ、安定しているからだという。勿論、従来通りの大手ブランド企業での出世を目標としている若者も大勢いらっしゃる。
しかし、起業や独立を目指すという声は、あまり聞かない。というか、年々減少している。理由は、成功確率が少ないから、下手な挑戦はしないのだそうだ。
今時の若者は慎重なんだと勝手に思い込んでいたら、自分達のやりたいことをやるために起業されたという、フィルムスタジオを経営するCEOに出会って大事な事を思い出した。
そもそも、起業する最大の条件は、「やりたいこと」があるかどうかだった。慎重というより、どうしてもやりたいことが無いのかもしれない。
だからと言って、なんでもかんでも起業をお勧めはしないが、「やりたいこと」が明快な人は、具体的に計画されて、動かれてみたらいかがだろうか。
やりたいことには、こだわりがある。やりたいことには、愛がある。やりたいことには、自信がある。やりたいことは、人を惹きつける。人がついたら、「やりたいこと」が「出来ること」になる。
そんな流れがあったかどうかはわからないが、自分達のフィルム制作がしたかったという彼らは、思い通りに作ったフィルムで創業時から業界で評価されているという。確かに、メンバーそれぞれの個性や感性を生かして創作された作品は魅力がある。
静かな中に強烈な印象が残る不思議な世界観を持っている。日本の隠れた美を伝えたいからなのか、自分たちの拘りの表現方法なのかはわからないが、こんなに繊細で無垢な心を感じるクリエイター集団が、資本主義の仕組みにどのように立ち向かっていくのだろうと、余計な気をもんでいたら、芸能人のようなビジュアルの若きCEOが、年配者ばかりの会合で臆することも無く、出会う人ごとへの気遣いをもって接していらした。
荒波を生き抜く術を十分に持ち合わせた今時の起業家の強さを感じて頼もしかった。この難しい時代に、やりたいことで起業しようとする人は、安心、安全、安定の選択を外して挑戦するのだから、昔というか、私なんかの時代より数段の気合と根性が入っているのは間違いない。
これからも、思い通りに日本の埋もれたいいところを沢山撮って残して頂きたいと思っている。
それにしても、クリエイターで独立や起業している人との接点は、それなりにあるのだが、どの方々もそれぞれの個性や専門にあったセンスのいい仕事をされている。なにしろ、プロの手にかかると映る物や作品がいきなり生き物になる。実に羨ましい才能だ。
情報化社会は、面倒な反面、誰でも発信できるチャンスを持っているのだから「何か」を「生み出す」「その瞬間を残す」という才能がある方たちにとっては、いい時代だと思う。
日本のクリエイターの名前が世界中を駆け巡り、子供たちの未来の夢の一つにクリエイターという職が入る日も遠くない気がしている。