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コラム

第183回

「イントレプレナーの時代」

世界は今、ビジネスモデルの地殻変動が起きています。日本を除き多くの国がインフレに陥っています。日本の財政金融危機は、緊張感を増してきました。円の価値が変動する事を語る人達が増え、デジタルグローバル社会での競争力が問われ、多くの企業が岐路に立っています。

パナソニック7,721億円、ソニー4,566億円の赤字、といった大手電機メーカーや半導体メーカーが総崩れとなり、水面下で数万人を超える大リストラが進行しています。

これまでの様な、リストラやコストダウンによる一時しのぎで事業を再構築できるものではありませんが、各社人員を削減し凌ごうとしています。その結果、皮肉なことに技術やネットワークを持った経験豊かな人材が新興国に流出し、リストラをした企業に脅威を与える競合企業の牽引者となっています。

過日、韓国のサムスン電子の幹部の方の話しを聞く機会がありました。韓国も中国も隆盛を極めていた企業が現在、実態は何処も厳しいと語っていました。液晶テレビで隆盛を極めたシャープが、2012年9月中間連結決算の税引き後、予想の約2倍の4,000億円規模の赤字を出し、経営危機に陥っています。

サムスンもこの領域は赤字で、決して盤石ではないと語っていました。中国やインドも含め、成長は鈍化し、世界の景気の潮流が、変わってきています。

最近、新たな事業収益を求めM&Aに活路を見出そうと試みている企業が増えています。M&Aの7割は失敗といわれています。シナジー効果がないまま途方に暮れ、本業を圧迫している企業も多く見受けられます。

これからの成長エンジンを創生することで、企業の存亡を賭ける戦略を取る時流が強まっていますが、多くの企業がトライしても、厳しい現実の壁にぶち当たっています。新規事業の投資に回す資金は用意できても、企業内起業家がいないのです。

現在、多くの大手企業のボードメンバーは、オペレーションやコストカットで評価された方々で構成されています。自ら事業を立ち上げ、成功に導いた経験のあるボードメンバーがいない現状で、新規事業判断基準や社内にインキュベーターが存在していない企業が大半です。

新規事業が創生される企業には、独自の事業創生文化や仕組みが存在しています。そして、企業のトップが強い意志を持って事業創生に取り組むことが前提条件となります。

新規事業を育てるには、挑むべき事業領域を技術・産業のライフサイクルから考え、経営層と強い意志を持った企業内起業家とそれをバックアップしてゆくインキュベーターの三位一体となった組織が不可欠です。新規事業開発とは、企業内起業家の発掘と支援にあります。

過日、事業創造大学院大学で「企業内起業成功の条件~イントレプレナーの時代~」というテーマで以下の様な内容の講義をしました。参考になれば幸いです。

「企業内起業家になる為の成功条件は、起業家資質がなければならない。起業家は、メンタルブロックをはずし、固定概念を壊すことが肝要だ。そして、マーケットや顧客を捉える時に大局観を持った鳥の目、ミクロの虫の目、イマジネーションを持ったクリティカルシンキングの目といった三つの目で捉え、気づきを発想に変え、アイデアにつなげ、ビジネスモデルを創ることが重要である。

企業内起業家がテーマに向き合う時、自分の会社は「何屋」か定義し、過去・現在・未来を洞察し、アイデア・発想を結び付けていくことが大切だ。特に、変わった顧客を見つける視点やライフデザインのプロセスを踏まえた顧客設定が重要なポイントとなる。

次に、経営資源を活かすことが、企業内起業の競争優位性となる。大切なことは、不満、不能、不便など「不」の中にあるニーズの根源を把握することはもちろん、顕在化していない部分に焦点を当てることである。自社や組織の強みと弱みを理解し、経営資源を新商品開発といった市場の深耕、拡大、多角化の三方向のどこに向けるのかを明確にすることだ。さらに、経営層、企業内起業家、社内インキュベーターの「三位一体」のチームとしての枠組みが必要だ。新規事業を成功させるうえで確率が高いインキュベーションは、ラインからの提案、つまり現場からのボトムアップによるもので、個人のイントレプレナー精神がその原動力となる。」

これからのビジネスは、クックパッドやリブセンスのように、利益の源泉のポジションが変わり、富はプラットフォームから生まれています。現実と未来を見据え、顧客をみつめ、ビジネスを創り上げる企業内起業家が、一人でも多く出現する社会の実現をしてゆきたいものです。

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