第217回
「遺伝子と社内起業」
前回、堀場さんがおっしゃっていた「アメリカのシリコンバレー型のベンチャー投資育成ではなく、日本では大企業から新規事業を分離独立させるあり方がうまくいく」という話をご紹介したところ、もっと知りたいとの声が寄せられました。
以下、堀場さんが語っておられた内容です。
「人には、新奇性追求遺伝子というものがあり、アングロサクソン系のアメリカ人は、その遺伝子を100人いれば半分の50人が持っている。新奇性追求遺伝子が強い人は、ドーパミンが受容体にくっつきやすく、意欲がわきやすく、何か課題に直面するとそれを打破すべくチャレンジしたくなり、無鉄砲でもあり、そして飽きるのも早い傾向にある。
この遺伝子を持つ日本人は、100人中2人しかいない。政府が起業立国にするために多くの起業家を増やそうと長年取り組んでいることは良いことだが、様々な施策を打ってもなかなか思うように起業家が出現してこないのは、こういった遺伝子を持った人が少ないからなんや。
アメリカでベンチャーが成功し、なぜ日本ではうまくいかないのか、その解を求め続けてきた。1996年に、人間の気性に強く関係する新奇追及遺伝子が発見されたことを知った。
以来、日本では、新奇性追求遺伝子を持つ人が少ないので、それぞれの会社で社員が社内ベンチャーを起こしていった方がいいと思うようになった。
あんたが言うように、日本は世界で類を見ない2万6,000社の100年企業が存在している。
それは次世代を担う起業家を社内で発掘し、機会を与え新規事業やグループ会社として起業をバックアップしてきたからなんや。
ただ、すべてうまくいくというもんでもない。失敗した例は何社も見てきた。親分がなんでもかんでもしょっちゅう口を出すと、本当にうまくいかん。間違ったことを言ってないこともあるが、何か言うこと自体が起業家を駄目にしてしまう。だってそうやろ?起業家は、自分の五感で考え自分で決断し、自分の責任でやりぬくことが大切なんやから。
親分の顔色や頭の中ばかり気にしてたら、取引先やお客さんの求めるものと離れてしまう。
僕は “絶対に、口を出さない”と決め、代表を離れてから一切何も言わないようにした。その結果、起業経営者が育ち、いくつかの事業が生まれ育った。
ベンチャーの勃興も大切や。それぞれの企業で、チャレンジしたいと思っている社員が事業を立ち上げる仕組みを作ることが日本ではうまくいく在り方だ。あんたが取り組んでいるインキュベーションを、もっと多くの企業が取り入れていけばきっと日本は元気になる。」
最後にお会いした際、今ではお店選びには欠かせない、グルメ情報サイトの「食べログ」も社内起業だと紹介したら、「そうや」と、うなずいた笑顔が脳裡に残っています。