第210回
「仕事の道」
求人倍率は上がっていても失業率にあまり変化は無く、未だ多くの失業者がいる。不思議なのは、始めから働くことを選択しない若手無業者の方もいるという。
無理矢理に就職しろとは言わないけれど、若い方が仕事をする喜びを知らないままでいるのは惜しいと心から思う。人間は突き詰めると働くことで幸せになる生き物なのに。ともかく、気持ちよく働いたら、より楽しい青年期を過ごせるのに。
叱られたり、泣いたり、恥をかいたり、失敗して己の未熟さを思い知っても、時が過ぎれば良き思い出となる。有難くも人間とは都合良くできているのである。
昭和の頃、今では死語となっている「企業戦士」と呼ばれた人たちがいた。「24時間働けますか?」と問われることに何の抵抗感なく、大騒ぎで仕事をしていた。何と言っても、自分の仕事が好きで楽しかったし希望があったからではないだろうか。
そんな時代の同世代の一人がリタイアする話を聞いた。彼も生粋の企業戦士だった。しかも、気合の入った仲間たちの間でも、伝説の仕事人だった人だ。受けた仕事は手を抜かずやり抜く。体調も時間も関係ない。知的で穏やかで面倒見も良い人情派だが、その昔、仕事をエスケープした仲間を戒めた時の怒りは、その様子を見ていた後輩達にとって忘れられない教訓になっている。そういう「仕事を舐めるな!」という基本の心情は一生変わらなかったはずだ。
だからこそ予定通りのいいリタイアが出来たのだろう。勿論その間には、心身共に相当な苦労があった事は理解している。
時代に揺れ動く老舗大組織の中を、中途の平社員から登るのは並大抵ではない。でも、彼には、自分の仕事道があった。
周りに左右されない仕事道を歩いていた。そして、組織人として重責につき、業績に貢献して終えるという目標を見事に達成した。その彼の仕事に対しての向き合い方は、「人一倍働いて当たり前」である。昔から、どんな仕事も出来ないとか、わからないとか、やりたくないとかなんて絶対に言わない。
一度の人生、自分が受けた仕事時間を精一杯生きると決めていたのだ。その時間の使い方に迷いなくその道を進めた素晴らしい人生だと心から思う。かといって、全ての仕事人に同じような生き方を求めはしない。
人にはそれぞれの人生感があり、世の中には沢山の仕事がある。そして、どんな仕事にも喜びの種はある。その喜びを見つけて自分の糧にしていくと自分だけの仕事道が開いていくのだと思う。
とはいえ、人間の殆どは、なにかしらの仕事をして人生を過ごすのだから、出来れば大好きな仕事だけで時間を過ごせれば言う事ないが、そういう訳にもいかない。ところが、面倒で苦手な仕事でも笑顔で進めるとストレスが減り効率もあがるらしい。
つくり笑顔でも充分効果はあるというので何かの時には試されたらいい。案外、好きな仕事に変化するかもしれないので。