第287回
「死の谷を乗り越える組織」
4月13日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます。
「死の谷を乗り越える組織」
「デスバレー(死の谷)」という言葉をご存じだろうか。起業から事業化する黒字転換ステージへ進めるかどうかの障壁のことで、落ちれば死ぬほど深い谷に例えられる。
企業は構想を実現する事業化プロセスで売り上げを確保するため、資金や人材などの経営資源を調達・配置することが必要になるが、そのための資金は開発フェーズよりも大きくなることが多い。売り上げと利益が上がらなければ市場での認知も上がらず、有能な人材も集まらない。時間だけが経過し、資金ショートを起こしデスバレーで事業撤退や倒産に陥る。
当社の創業間もない頃、投資先がデスバレーを克服できずに倒産し、窮地に追い込まれたことがある。この経験から「デスバレーを越え成功する起業家と倒産する起業家の違いはどこにあるのか」と考え抜いた。
デスバレーを克服するには3つのキーワードがある。
ダイバーシティ組織、アライアンス、マーケターだ。ダイバーシティ組織とは、実績を持つミドル人材の経験知やノウハウを取り入れている組織のことだ。
デスバレーを越えIPOした会社組織には経験豊かな人材が社外役員やアドバイザーとして参加していることが多く、ダイバーシティ組織が変化に対応する役割を果たしている。ダイバーシティ組織を作ることで、現状把握から集中すべきこと、やらないことを見極め、ケイパビリティー(組織の推進能力)を高めることができる。
次に、デスバレーを越える戦略として、アライアンスによる手法がある。顧客基盤を持つ事業会社との提携や連合によって売り上げと利益をあげていく方法だ。限られた資金とリスクを抑え、不足しているリソースを補うことで成長を加速させ、事業化していくことができる。
そして最後に一番重要なのがマーケターの存在だ。多くの起業家とかかわる中で「起業家はアートな人が多く、マーケターは少ない」ことに気づき、投資先にマーケター人材を紹介するようになった。事業の主戦場(エリア、ターゲット、ビジネスモデル)に応じて、目標を達成する道筋を決められる経験知を持つマーケターの存在で、事業化の成否が変わる。
デスバレーを越えるマーケターには3つの要素がそろっている。
事業収益への影響が大きい施策をKPIに分解し投資する意思決定力で柔軟に対応できる」「事業化する数値を素早く計算する概算力が優れている」「ゼロから事業を立ち上げる起業家と相性が合うこと」だ。
特に起業家との相性は極めて重要な要素となる。
資金調達だけに頼ることなく、売り上げと利益を伸ばすことにフォーカスし、俯瞰(ふかん)的に捉えされるマーケターがいる組織が、デスバレーを乗り越えていく。