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コラム

第289回

「主観と客観の両面で語る」

6月17日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます。

「主観と客観の両面で語る」

過日、Jリーグ5代目チェアマンを務めた村井満さんとお会いした。

村井さんとはリクルートの求人広告事業で共に営業の仕事をしていた間柄だ。

「主観と客観の両面で語る」

村井さんはJリーグクラブ代表やクラブ運営の経験はなかったが、リクルートグループの様々な要職を務めた後、2014年に第5代Jリーグチェアマンに就任した。その矢先、浦和レッズ対サガン鳥栖戦で浦和レッズのサポーターによる人種差別的な横断幕が掲出された。浦和に対する無観客試合処分というJリーグ初の決定が村井さんにとっての大きな初仕事となった。

その後、Jリーグの財務面においては明治安田生命保険との4シーズンタイトルパートナー契約や、スカパーJSATとの5シーズンにわたる長期海外放送権販売契約など、事業収益を大きく改善し経営基盤を安定させた。

また、フットボールの普及、スタジアム整備、デジタル技術活用、国際戦略の実行、経営人材の育成にも取り組んだ。

他にも社員総会の実施やチェアマン室の廃止、第三者委員会による後任チェアマンの選出などの内部改革を行い、新型コロナウイルスへの迅速な対応を含め、大きな功績を残した。

私がリクルートにいた頃、村井さんから影響を受けた言葉がある。リクルート事件の余波を引きずってところにバブルが崩壊し、景気の悪化によってリクルートの経営破綻が語られたことがる。村井さんはリクルートの人事の要職にあり、キャリア支援や研修制度強化に取り組んでいた。動揺する社員たちに「リクルートは雇用を保証する会社ではなく、雇用される能力を保証する会社でありたい」と所感を送ったメッセージが、社員に勇気と力を与えたことを鮮明に覚えている。

「主観と客観の両面で語る」

また、人にヒアリングする時、うわべで話しを聞いても「本音」を知ることはできない。個々人に寄り添いながら心のひだに触れ、「実は」という言葉が出てくるまで聴くことが、マネジメントや事業変革の起点になると学んだ。

村井さんにお会いした後は、いつも交わした言葉が消えない。深い洞察力と哲学を持ち、主観と客観の両面からソフトに語ることで、立体的に言葉が伝わり心に残る。

過日、村井さんが「夢を追い続けた人が報われる社会を作る」ことを目的にした「ONGAESHI(恩返し)ホールディングス」を設立した。投資ハンズオン事業を、投資ファンドのプロと共に立ち上げた会社だ。

これまでリクルートとJリーグでの経験培った「人と組織を深く洞察し、情報をオープンにすることで組織を活性化させる経営」で、地方企業の夢やビジネスをバックアップしていくという。

村井さんがこれからどんな世界を創るのか楽しみだ。

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