column

コラム

第293回

「人的資本投資経営の時代」

11月9日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます。

「人的資本投資経営の時代」

「人的資本投資経営の時代」

2020年からの新型コロナウイルス禍で様々なサービスがオンラインにシフトした。当社の「イントレプレナー塾」もそのひとつだ。同塾の「ミッション、価値、成果とは何か」を改めて再考した。

「企業内起業家がひとりでも多く覚醒する機会の場」にすることをミッションに、「起業家に変貌する意欲を引き出す、ストーリーベースのカリキュラム」に再設計した。チャット、挙手、投票などの機能の活用と、少人数でのワークの時間を増やすことで、双方向のコミュニケーションで塾生が主体的に参加する、「知」の集積の場を構築した。

オンライン化により、講義を録画して、参加できなかった塾生がいつでもどこでも受講できるようになり、地域間の格差がなくなり学ぶ機会の均等につながった。しかし、オンラインには落とし穴もある。オンラインは頭が疲れ、参加者の脳の動きが鈍化して言葉の出方が変わってくる。脳のパフォーマンスが低下してしまうのだ。また、リアルで会えないことでエンゲージメントの低下も懸念された。

オンラインとリアルそれぞれの利点と欠点を見極めたハイブリット形式に改善した。オンラインでは「笑いを誘うナビゲート」「休憩の時間設定とタイミング」「雑談タイムの導入」「カリキュラムの短縮」「オンライン飲み会」で集中力とモチベーションを維持した。リアルではカリキュラムの中間と最終日に実際に集い、オンラインでは難しい塾生同士の「共感」を得ることでエンゲージメントを高めた。最終日のプレゼンはリアルで実施、互いに評価し合う。こうした取り組みにより実現性の高い事業案が生まれ、多くのイントレプレナーが誕生した。

現政権でも提唱する「新しい資本主義」であ、人的資本の投資が重視されている。社会人の「学び直し」として、デジタルなどのスキルアップへの教育支援が提示されたが、スキル獲得への投資だけでは経済構造の激変に対応しきれない。欧米ではコロナから脱する経営計画を描くだけではなく、「その計画を実行できる人材がいるのか」といった観点から、経営戦略と人材戦略を連動させた実現性のある計画かどうかが問われ始めている。

次々と変化するデジタル社会でサステナビリティーに対応していくには「事業を創る起業家への人的投資」の転換が必要だ。新たな産業の創生を伴わなければ、持続可能な「新しい資本主義」の軌道にはつながらない。これからの社会で適応する「人的資本経営」へのパラダイムシフトは、グローバルな視野で人のやらないことに挑戦するスタートアップへの投資と、価値を増大できる大企業のイントレプレナーへの人的資本の投資の混合がカギとなる。それが日本経済のダイナミズムの源泉になる。

コラムを毎月メルマガでご購読